東京高等裁判所 昭和57年(行コ)133号 判決 1984年2月15日
第五一号事件控訴人(第九一号事件原告) 野村利雄
(右事件以外控訴人(原告) 一六二名)
第五一~五六号事件被控訴人(第九一、九三~九八号事件被告) 東京都千代田都税事務所長
(右事件以外被控訴人(被告) 二五名)
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らがそれぞれ控訴人ら(その対応関係は別紙当事者目録記載のとおり)の昭和五〇年分事業税につきいずれも昭和五〇年八月一一日付でした賦課決定のうち事業税額が原判決添付別表の原告ら(控訴人)主張額欄記載の金額を超える部分をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被控訴人らの答弁
主文同旨
第二当事者の主張及び証拠関係
原判決事実摘示及び当審記録中証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決二一枚目表四行目の「その者にかわる」を「その者にかかる」と改める)。
理由
一 当裁判所も控訴人の本件請求はいずれも理由がないと認定判断するが、その理由は、左記のほかは原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。
二1 原判決三九枚目裏一行の末尾に「(最高裁判所昭和五五年(行ツ)第九六号、昭和五八年一一月一日第三小法廷判決)」を加入する。
2 原判決四二枚目裏三行目の「ものではない」の下に「(講学上のいわゆる人税、物税の種類区分は必ずしも明確ではないのみならず、仮に右区分が可能であり、また事業税が物税に属するからといつて、そのことから直ちに事業主報酬の必要経費性が容認される道理はなく、却つて物税たる性質上事業主報酬はもとよりその他一切の必要経費をも控除すべきではないという考え方も十分成り立つのである。)」を、同八行目の「のである」の下に「(それゆえ法七二条の一九は、課税主体たる都道府県は、事業の情況に応じ、所得によらないで売上金額、家屋の床面積もしくは価格、従業員数等を課税標準とし、また所得とこれらの外形標準とを併用して課税標準として用いることができる旨規定しているのである。)」をそれぞれ加入し、同四四枚目裏七行目の次に左記を加入する。
「(五) なお付言するに、憲法は、地方公共団体に対し、地方自治の本旨に従つてその事務を処理するための課税権、即ち必要な財源を自ら調達する権能を付与しているものと解されている(九二条、九四条。いわゆる自主財政主義)。従つて地方公共団体は、憲法上はいかなる租税をいかなる課税要件のもとに賦課、徴収するかを自主的に決定することができる(その賦課、徴収については、国税における租税法律主義とパラレルに条例課税主義(地方税条例主義)が要請される。)。もとより自主財政主義ないし条例課税主義の原則は、地方公共団体ごとに税制が区々になり、住民の税負担が甚だしく不均衡になるのを防ぐために、地方公共団体の課税権に対して国法で統一的な準則や枠組を設けることを前面的に否定するものではない(地方税法の制定)。しかし自主財政主義の趣旨に鑑みると国法といえども地方公共団体の自主(独立)財源の確保等その自主性は十分に尊重すべきものであつて地方税のすべてを一義的に規定することは適当ではないというべきである。かような観点からみるならば、措置法の中のみなし法人に関する規定は、国税である所得税法の特例を定めたものであつて、当然に地方税法の特例をも定めたものでないことは十分に首肯しうるところといわねばならない(即ち地方税法に明文がない限り、地方公共団体の自主財源の確保に反するような地方税の税額計算におけるみなし法人課税の選択が当然には認められるものではない)。」
3 同四六枚目表一〇行目から五五枚目表六行目までを次のとおり改める。
「2 この点に関しては前記判示(引用にかかる原判決理由二1(一)(2)の部分)のとおり役員報酬と事業主報酬とはその性格を異にするものであることを指摘しなければならない。そして、法は、法人事業税と個人事業税とで、その課税客体、課税標準、税率、徴収方法、分割基準など多くの点について違う取扱をしているのである。従つて、単に労務部分に対する対価という点で共通するものがあるからといつて、当然に役員報酬と事業主報酬を課税上の取扱いにおいて同一視しなければならないものではなく、両者を前記のように別異に取扱つても、それだけでは、憲法上の平等原則違背の問題を生じないというべきである。
ところで、法七二条の一八は個人事業税の課税標準の算定に当たり、一定額(本件係争年度については年額一八〇万円である。昭和五一年法律第七号による改正前の地方税法第七二条の一八第一項)をいわゆる事業主控除として事業所得計算上控除すべきことを定めているものであるが、原本の存在及び成立に争いない乙第四号証の一及び同第一〇号証によれば、右事業主控除の制度は、免税点制度に端を発し、昭和二七年度の税制改正で基礎控除制度に、さらに同三六年税制改正で現行のような事業主控除制度となつたものであるが、右制度の現時における趣旨は、雰細個人事業者の事業税負担の排除と事業主の勤労性部分の概括的な控除を行なうことにより、事業税負担の公平を図る点に存するものと認められ(右認定に反する証拠はない。)、これによれば、事業主控除の制度の採用は、法人の場合に役員報酬が必要経費(損金)として控除されることとの均衡の面をも考慮した立法政策によるものと認められる。従つて事業主控除の制度の目的に照らして、控除額が合理的であるかどうかは立法政策上の当不当の問題を生ずるにとどまる。
なお、控訴人らは、個人企業と経済的実体の異ならないいわゆる法人成り企業に比べて個人事業主は不当に差別されている旨主張するので検討するに、確かに個人企業と何ら経済的実体の異ならない法人成り企業(その多くは同族企業である。)が多数存することはいわば公知の事実であり、これらの役員報酬が既に述べたような法人事業税の課税標準算定の方法に従い、全額損金として控除されていることは明らかであり、事業税負担につき個人企業にとどまる場合と法人成りした場合とではその間に差異の生ずる余地のあることは否定できないところであるが、法人成り企業と雖も法人であることに変りはないから違憲の問題は生じないのみならず、その経済的実体に着目しても、前記の如く、双方の格差是正のため事業主控除制度が設けられており、また個人事業においても法律の定める要件を充足することにより法人化して控訴人らの主張する法人成りによる恩典を享受する途は等しく開かれているのであるから、両者間に事業税負担の点において多少の格差がありうるからといつて(本件処分当時において両者間に著しい不均衡があると認めるに足る証拠はない。)不合理な差別となるということは到底いえない。
従つて、控訴人らの憲法一四条一項に違反する旨の主張は失当であるし、また右違反を前提とする同法八四条違反の主張も右前提を欠くから失当というべきである。」
三 よつて控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴はいずれも理由がないからこれをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 田中永司 宍戸清七 岩井康倶)